第三回コラム『家族信託マニュアル!必要な手続きの流れを完全解説』
【過去のコラム】
第1回コラム『家族信託って何?家族信託基本編』
第2回コラム『知っておきたい家族信託のメリット・デメリット』
これまでのコラムで家族信託の基礎やそのメリット・デメリットをご紹介してまいりました。
家族信託でできることもだんだん理解できて少しずつ気になってきたものの、実際に家族信託を利用するにはどうすればいいのかわからないという方もいるのではないでしょうか。
今回はそうした、
「家族信託はどんな流れで手続きを行うの?」
「家族信託にはどんな書類が必要なの?」
という手続きに関する疑問に答えていきます!
実際に家族信託を少しでも利用してみたいと考えている方はぜひ参考にしてもらえればなと思います。
まずは大切なご家族の状態の確認からです。
健康状態の確認をしましょう!認知症になる前に!
家族信託を利用するには大きな前提条件があります。
それは、「委託者(財産の元の所有者)と受託者(財産を託される人)が正常な意思表示能力を備えていること」です。
今まで紹介してきたことからもわかるように、家族信託契約ではある財産を管理する権限を人から人へ移す法的な契約になります。
法的な契約である以上、認知症等で正常な意思表示能力を持っていない場合には家族信託契約を利用できなくなってしまうので注意が必要です。
どのような場合であっても、契約を行う主体である委託者とその後の財産の管理を任される受託者については必ず正常な意思表示能力を持っていることを証明しなくてはなりません。
家族信託を利用したい場合には認知症や事故等で「意思表示能力がない」とみなされる前に早めに契約を結ぶことをおすすめしています。
ご家族の想いの整理と目的確認
ひとまず委託者と受託者が認知症でないということが担保されたとしましょう。認知症かどうかの確認はクリアです。
次に必要なのは「家族信託の目標を設定する」というフェーズになります。
「何のために信託を利用するのか」という点を明確にしないと、家族信託を適切に利用することができないからです。
家族ごとにどのような財産がありどのような未来を描くは異なってきますので、まずは家族で話し合いましょう。
まずは、委託者となる方が抱える課題や希望を洗い出すところからになります。
ある程度の想いの整理ができたら、家族信託に当たって関係する家族や親族を含めて話し合いをして委託者の意思や想いを共有する場を持ちましょう。
なお、小さい子供や障害を持つ方が受益者になる場合には、必ずしも話し合いの場に受益者が同席しなくても構いません。
ただ、特段秘密にする必要がない、受益者が自身の意思をはっきり伝える能力を持つというような場合にはあえて伝えない理由もないので、極力共有するようにしましょう。
できるだけ家族全体で委託者の想いを共有して、その思いを達成するという目的のもとに家族信託を設計するのが家族信託の上手な使い方の秘訣です。
想いを実現できる家族信託の形を検討しましょう
委託者の想いを整理し家族信託を行う目的がはっきりしたら、その目的を達成・実現させるためにどの財産をどういった形で信託するかを検討します。
例えば、障害がある子供のために信託するのであれば、
信託財産:日々の生活費として使いやすい預貯金
委託者:父親
受託者:障害をもつ子供の兄弟
受益者:障害を持つ子供
という形が考えられます。
自分の死後、高齢で財産管理が難しくなった配偶者(妻)の生活を守りたいということであれば、
信託財産:現在住んでいる自宅不動産、生活費の原資となる預貯金
委託者:父親
受託者:子供
受益者:母親
という形が考えられます。
こうした例からもわかるように、家族信託は様々な形が考えられますので家族できちんと話し合い、時には資格者に相談しながら理想形を見つけましょう。
信託契約書の作成
契約書の作成は、家族信託の内容を具体的に契約の形にするための重要な工程です。
今回は簡単に信託契約書の中身を羅列するにとどめます。
①信託の目的
②信託する財産について
③委託者について
④受託者について
⑤受益者について
⑥第二受託者や第二受益者などについて
⑦信託監督人について
⑧信託期間
⑨残余財産の扱いについて
以上、9つが信託契約の大まかな中身になります。
実際の契約書の作成を行う際には個別ケースの各項目について慎重に記載内容・記載方法を検討する必要があります。
理想の家族信託の形を実現するために必須となる書類ですので、作成する際は必ず専門家の意見を取り入れながら進めるようにしてください。
契約書の公正証書化を検討しましょう
家族信託の契約書は必ずしも公正証書によって作成する必要はありません。しかし、後日の紛争防止のためできるだけ公正証書の形にすることをおすすめしています。
公証役場と事前の連絡・調整を行ったうえで、先ほど紹介した家族信託契約書の原案と以下の必要物・必要書類を持参して公正証書の作成を行います。
・委託者及び受託者の実印と印鑑証明
・信託に関係する人物の戸籍謄本
・信託財産に関する資料(不動産登記簿や預金通帳等)
こうした必要な書類等も個別のケースによって異なりますので、公証役場に何度も足を運ばずに済むように予め士業資格者に相談をしてから臨みましょう。
財産の名義変更
さて家族信託契約書を無事に作成できたとして、それだけでは信託の事務を始めることはできません。
第1回のコラムでも紹介したように、家族信託は信託財産の所有権移転が行われて初めて機能する制度になります。
ですので、家族信託契約書の作成等とは別に、信託する財産を受託者の名義に変更しなくてはなりません。
不動産については、法務局で信託する不動産の名義変更を行います。
預金については、「信託口口座」という信託専用の口座を作り、そこに信託する預金を移して管理するという形になります。
不動産や預金以外の財産、例えば株式であれば株主名簿の書き換え手続きが必要になりますし、経営しているアパートを信託財産とする場合は賃借人の賃料振り込み口座の変更手続きなども必要になってきます。
ケースによっては名義変更も多大な労力を必要とするので、契約書の作成と合わせて、弁護士や司法書士等の専門家を上手に活用しましょう。
次回からは「実際の家族信託事例」を配信してまいります!かなり具体的な内容になりますので具体的なイメージが湧かない人はぜひ読んでみてください!